医療法人の税務調査

1.ポイント

税務署から税務調査の要請を受けた場合には、納税者の都合で断ることはできません。

2.解説

医業収入は診療報酬請求が大きな割合を占めているので、その点については絶対的にごまかせません。問題は自由診療部分と、個人事業からの財産引継ぎです。税務調査は、申告内容が正しいかどうかを帳簿などで確認し、申告内容に誤りが認められた場合や、申告する義務がありながら申告していなかったことが判明した場合には、是正を求めるものです。税務調査は次のような手順で行われます。

 

(1)事前通知

税務調査に際しては、原則として、納税者に対し調査の開始日時・開始場所・調査対象・税目・調査対象期間などを事前に通知します。その際、税務代理を委任された税理士に対しても同様に通知します。なお、合理的な理由がある場合には、調査日時の変更を求めることができます。ただし、税務署等が保有する情報から、事前通知をすることにより正確な事実の把握を困難にする、または調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合には、通知せずに税務調査を行うことがあります。

 

(2)質問検査等

税務調査の際には、質問検査権に基づく質問に対して正確に回答しましょう。また、調査担当者の求めに応じ帳簿書類などを提示または提出してください。質問事項に対し偽りの回答をした場合や検査を拒否した場合、または正当な理由がなく提示若しくは提出の要求に応じない場合、偽りの記載をした帳簿書類の提示・提出をした場合などについて、法律に罰則の定めがあります。

調査担当者は、税務調査において必要がある場合には、納税者の承諾を得た上で、提出された帳簿書類などを預かることがあります。その際には、預り証が交付されます。預かる必要がなくなった場合は、速やかに返還されます。

なお、税務調査の調査担当者は、調査の際に身分証明書と質問検査章を携行し、これらを提示して自らの身分と氏名を明らかにします。調査の際には確認しておきましょう。

 

(3)取引先等への調査

税務調査において必要がある場合には、取引先などに対し質問又は検査等を行うことがあります。

 

(4)調査結果の説明と修正申告や期限後申告の勧奨

税務調査において申告内容に誤りが認められた場合や、申告する義務がありながら申告していなかったことが判明した場合には、調査結果の内容(誤りの内容、金額、理由)を説明され、修正申告や期限後申告(以下「修正申告等」といいます。)を勧奨されます。この場合は原則として修正申告等を行うこととなります。

 

(5)更正又は決定

修正申告等の勧奨に応じない場合は、税務署長が更正または決定の処分を行い、更正または決定の通知書が送られてきます。なお、税務署長が更正または決定の処分を行うことができるのは、原則として法定申告期限から5年間です。

 

(6)更正又は決定をすべきと認められない場合の通知

税務調査の結果、申告内容に誤りが認められない場合や、申告義務がないと認められる場合は、その旨が書面で通知されます。

 

(7)再調査

修正申告・更正または決定をすべきと認められない場合の通知が行われた後でも、税務調査の対象とした期間について、新たに得られた情報に照らし非違があると認められるときは、改めて税務調査を行うことがあります。

 

(8)医療法人化した場合の留意点

医療法人化する場合、個人事業で使用していた財産は、税務上も医療法上も財産価値のあるもののみ、引き継ぐことができます。価値がないと判断されたものは、引継ぎを否認されることもあります。

 

(9)業者からの贈与

他業界と比べると医療業界は、リベートや贈与などが多い業界といえます。特に多額の金銭が絡む設備の拡充などの場合には、パソコンや医療機器といったものが贈与されることもあります。数年前には、透析関連機器導入に際し、業者が附属設備の工事を無料で行っていたことが発覚し、透析実施病院と透析材料業者が、集中的に調査を受けたこともあります。材料の供給業者と設備提供業者の間に整合性があれば、材料仕入価格の一部として否認されるかどうかは微妙ですが、役員へのパソコン等の備品贈与などがあると、個人的使用に供するものとして否認されることもあります。そのため、医療機器や備品については定期的に棚卸しを実施し、業者から無償提供してもらった資産については、合理的な説明ができるようにしておく必要があります。

 

(10)役員報酬

近年、親族役員の報酬や給与について指摘されるケースが増えています。親族役員に関しては、業務内容や勤務形態などが同ランクである他の職員の給与等と比べ、合理性があることを説明できるようにしておきましょう。特に医療機関の場合は、報酬を受ける親族役員が、看護師など直接業務に関連する資格を有しているかどうかによっても、報酬の目安となります。

 

(11)レセプトの収入計上基準

レセプトの発生から入金までは、以下のような流れになっています。診療行為の後で

  • 翌月10日にレセプト請求
  • 翌々月下旬に入金および査定による入金の減額
  • 過誤分の訂正と再請求

 

(12)未収計上方法

税務調査で問題にされることが多いのが、査定による減額の処理です。決算時に未収入金をいくら計上すべきかについては、原則として、そもそものレセプト請求額で未収を計算し、減額となったものも含めて計上しておきます。減額となっても、決算時には再請求できる可能性があるためです。

 

(13)その他社会保険診療以外の収入

社会保険診療以外にも、市町村の健康診断や労災保険、自賠責保険などの収入がありますが、市町村及び自賠責保険については特に留意が必要です。まず、市町村からの受託業務については請求項目が多く、入金のタイミングも長期になる場合があります。また、自賠責保険についても、請求後6ヶ月以上経過するものも少なくないため、未収の計上漏れを指摘されることが多い項目です。決算時には、請求管理簿のチェックを実施するとよいでしょう。

 

(13)更正の請求

申告書を提出した後に所得金額や税額等を実際より多く申告していたことに気付いたときには、「更正の請求」という手続により訂正を求めることができます。更正の請求書が提出された場合、税務調査によりその内容を検討して納め過ぎの税金があると認められた場合には、税務署が「減額の更正」を行って納め過ぎの税金が還付されます。「更正の請求」できる期間は、法定申告期限から5年です 。

請求期間が延長されたため、調査官が修正申告の勧奨を行う際に、「不服申立てはできないが更正の請求はできることを説明し書面も交付しなければならない」こととなりました。そのため、税務調査に従って修正申告をしても、再度検討した結果に誤りがあった場合には、原則5年間さかのぼって更正の請求が可能となっています。例えば、調査の際には見つからなかった書類が後日見つかり、当初申告の内容が正しいことを証明できることになったとき等は、5年以内なら更正の請求ができます。