親子間の個人事業承継を概観してみよう

個人事業の場合、事業運営に係る資産は全て院長個人の所有物になっています。雇用契約やリース契約も院長個人がしています。

個人事業を親子間で継承する場合には、現在の院長が事業を廃止して、新院長が事業を開始して、現在の院長が保有している各種資産を新院長に譲渡し、契約は現在の院長との契約をやめて、新院長と結び直すということになります。

土地や建物、医療機器のような資産は時価での売買を基本とします。旧院長が亡くなっていなければ、旧院長が不動産を所有し続けて新院長と賃貸借契約を締結したり、MS法人を介してリースや賃貸をするケースがあります。

事業承継のときに、新院長は現院長との契約関係を見直して、一部のスタッフとは再雇用を行わないということもあるかもしれません。また、一度スタッフは退職になりますので、退職金をどのように支払うのかも検討が必要です。実質、身分は変わらないわけですから、退職金の支払いを先送りするということもあるでしょう。

カルテについては、患者の個人情報ですので、注意が必要です。カルテ等の医療に関する個人情報は法律で保管義務が定められ、診療完結の日から起算して、紙カルテは5年、電子カルテは10年、その他の診療情報は2~3年の保管義務があります。院長が保管義務を負っているのですが、この義務については承継という考え方はないのです。個人事業の場合、カルテ等の患者情報は承継できずに、新院長はゼロからカルテを作るということになります。しかしながら、非常に非効率です。そのため、患者さんの同意に基づいて診療契約の主体を替え、診療契約の主体の変更と同時に、カルテ等も引き継ぐことができるようになります。

患者への説明が何もないまま、新院長への事業承継が行われ、新院長が患者にクリニック開設案内等を出すと、個人情報保護法違反となるので注意しなければなりません。

また、行政の許認可手続きもあります。病院や有床診療所では、一度事業を廃止して新規開業しようとした場合に、病床過剰地域であれば、事業廃止と同時に病床の権利も返上することになります。

さらに、医療機関は新規開業の場合、保険医療機関の指定を受けなければならず、その指定の取得時期によっては、数か月診療報酬が入ってこない可能性もあります。一定額の運転資金を用意しておかなければなりません。